タンパベイ・バッカニアーズのQB3ジェイミス・ウィンストンが開幕3試合の出場停止処分を受け、その「穴埋め」として起用されたQB14ライアン・フィッツパトリックが思いのほか健闘したことから、「フィッツマジック」と呼ばれて話題になりました。
ルックス的にも非常に特徴的で面白い選手ですよね。プレスカンファレンスにアクセサリー付けまくって、ヒゲと胸毛ボーボーでグラサンして答えてるのがなんともシュール(笑)
今回は、そんなフィッツパトリックのNFL2018年シーズン序盤戦から、個人的に印象的だったプレーを、掘り下げてみたいと思います!
特に活躍著しかった第1週と第2週にを取り上げようと思うのですが、今回は前篇として、第1週ニューオーリンズ・セインツ戦のプレーからピックアップします!
(用語の使い方等はチームや人によっても違ったりしますので、参考程度にお願いします。)
衝撃的だったレギューシーズン最初のタッチダウン!
今回ご紹介するプレーは、TwitterのNFL公式アカウントが動画をアップしてくれています。
よかったら適宜参照してください。
この試合でフィッツパトリックは、登場4プレー目にして、いきなりロングパスでタッチダウンを取ってしまうんです!
第1Q 残り09:51
バッカニアーズ陣42yds付近から1st&10が
フィッツパトリックからWR11デショーン・ジャクソンへの58ydsタッチダウンパスです。
(先ほどの動画の最初のプレーです。)
なぜこんなにワイドオープンになったのかみてみましょう。
ざっくり図にするとこんな感じ。
図が下手なのは気にしないでください(汗)
(今回はDB登録の選手が右サイド#2レシーバーにマッチアップしていたので、一応ニッケル扱いにして「N」表記にしてみました。NGがこんなところにアラインしているのではないのでご注意ください。「N」+LB2人を「B」にしましたが、今後はこのような場合でも「S」「M」「W」で表すこともあるかもしれませんので悪しからず。)
プレーは、バンチ気味の右3×1から、プレーアクションでコーナーとアウト(←図の線の色と対応させています)のコンビネーションですね。(#2のジャクソンのルートは、本当はディフェンスへのアジャストで図より内側を走ったりしてるんですが、簡素化して描きました。)
ポストとインのコンビネーションで、MillsとかPin(PostとinでPin)コンセプトとか呼ばれたりするものがあるんですが、今回のプレーはそれを反転させたような形をしています。
このパターンの特徴としては、ディープゾーンのサイドライン際に、縦に2レベルできることではないかなと思います。それをイメージを図では紫色で表してみました。ちなみに、(コーナーの)赤+(アウトの)青→紫という絵の具的な発想です。
この紫の範囲というのは、一人では守りきれませんから、どちらかをカバーすると、もう片方が手薄になってしまうわけです。逆に真ん中にいたらどっちも通されたりします(笑)
で、8ヤードほどクッションを取っていたCBはどうしたかというと、#1レシーバーのアウトをカバーしたわけですね。すると、CBの後方に大きなスペースが空きます。そこにジャクソンがコーナールートで走り込んできてパスが通ったと解釈できるかなと思います。
SSがインバート気味で実質1ハイ・セイフティーなんですが(リプレイ時に実況も言ってますね)、真ん中にいるFSは、今回のように中央からサイドラインへ向かうようなルートへは、どうしても後追いになってしまいます。しかも、逆サイドのインに反応しながら下がったので、なおさらコーナー・ルートへの対応が遅れました。
SSもFSに受け渡したつもりだったのかもしれませんけど、FSが反対サイドのインに一瞬反応してしまっていたので、コーナーへの対応が遅れましたね。ニッケルもSSもついていかず、CBがあそこまでしか下がらず、FSが逆サイドのインみるんだったら、まぁ#2のコーナー通りますよね。第1週なので、伝達ミスとかアサイメントミスとかもあったのかもしれません。
もし全員正しかったんなら、FSに超人的守備範囲を要求するアサイメントだったということですね(笑)
(個人的には、本当はSSがついていかないといけないアサイメントだったのかな、とも思いますけどどうなんでしょう。ニッケルはあの位置から#2ではなく、実は#3にマッチアップしていて、#2のリリースをチェックしつつ、#3がパスプロだったらフラットに下がれ的なアサイメントだったのかな。で、CBは#1で、SSが#2だったのに、ニッケルと同じく#3みちゃった的な。まぁ、わかんないけど笑)
あと、ハッシュが左で右サイドが広いところに、レシーバーをタイトめに(OLに近いところに)セットさせたのも、外へ向かうルートを生かすという意味で有効でしたね。ワイドセットしてアウトしたら、すぐにアウトオブバウンズですから。
パスプロについて
このプレーは結構時間のかかるプレーですが、ここまでパスプロがもった背景には、人数を掛けたというのもあると思います。
まず、ウイングの位置にいる#3レシーバーは、パスコースに出ずにパスプロに参加します。
加えて、プレーアクションでフェイクしたRB25ペイトン・バーバーも、LGをフォローします。(しかもナイスフォロー!見てあげて!)
この結果、7人でパスプロをすることになったので、1対1になったのはLT対DEだけなんですね。
その分ダウンフィールドに出せたのは3人だけなんですが、その3人全員が機能してタッチダウンパスへとつながりましたね。
このプレーのまとめ
つまりこのプレーは、
7人でパスプロしてラッシュを止め、
シングルサイドのレシーバーがインでFSの動きを一瞬止め、
右サイド#1レシーバーのアウトでCBを止め、
QBフィッツパトリックが完璧なボールを投げ、
WRジャクソンがキャッチし、タッチダウンした。
まさしく11人全員でとったタッチダウンと言うことができるのではないでしょうか。
ディープのパスやロングパスと言うと、4Verticalのようなフェード系が思い浮かぶかもしれませんが、今回のようなプレーもロングパスのバリエーションの一つとして有効かなと思います。
また、コーナー・ルートの有効性を再確認したプレーでもありましたね。
有効な反面、(アクロス等と違い)QBからWRが遠ざかっていくルートなので、QBは投げにくかったり、WRはキャッチしにくかったりで難しいプレーではあるみたいですけど。
35歳ヒゲ男、魂のQBキープ!
続いて取り上げるのが、
第1Q残り02:03
セインツ陣3yds付近から1st&Goalの
QBフィッツパトリックのタッチダウン・ランです。
(先ほどの動画の0:48頃からです。)
これは、今回ご紹介するフィッツパトリックのプレーのなかでは、個人的に最も印象に残っているプレーです。
何がって、
「ゴン!」
と鈍い音が聞こえてきそうなフィニッシュです。
まぁプレーとしては、
左バンチからの何の変哲もないただのゾーンリードですけど。(失礼か笑)
一応、アバウトに図にしとくとこんな感じ。
星つけてみました(笑)
アサイメント図をデコっているのは世界的にも珍しいかもしれない。それぐらい、このプレーのハイライトは個人的にここです。QBではなかなか見ないヘッドオンヘッド。初めて見たときは「気合入ってるなぁ」と思いました。
ちなみに図のオレンジ色の三角形はDEをリードしました感を醸し出すために付けてみただけなので、あまり気にしないでも大丈夫です。
せっかくなので、内容もみてみましょう。
まず、TEにSS24ボン・ベルがマッチアップしてたんですが、マンツーマンだったので、TEのアウトリリースについていく。それによって、スクリメージラインの端っこの人(EMLOS:End Man on the Line of Scrimmage)がDE94キャメロン・ジョーダンになる。スナップを受けたフィッツパトリックは、そのDEをキーにリードする。DEがRBのランに食いついて内側にショルダーターンしたのを確認し、右サイドへQBキープ。
一方、LB47アレックス・アンザロンは多分RBにマンツーマンで、NGのスイムにすかされてやってきたCにブロックされる。(Cがバランスを崩しながらもLBを懸命にブロックする姿も見てあげてほしい。)DEとLBはRBにリアクションして左へ、SSはマンツーでTEのルートについていって右奥にいなくなっているので、右サイド手前の広いところでフィッツパトリック vs FS43マーカス・ウィリアムの1対1が出来上がった。
あとは、ご覧頂いた通りですね。
個人的には、QBに体を張られると結構グッときます。
もちろんQBに走らすのはやってる方からしたらリスキーですが、観戦してる分にはノーリスクですから、楽しみましょう(笑)
今度こそMilles!しかも…
フィッツパトリック特集前篇、最後にご紹介するプレーです。
NFLがこのプレー単品でアップしてくれているので、こちらでも見られるようにしておきました。
第4Q残り12:24
セインツ陣36yds付近から1st & 10の
フィッツパトリックからまたもやWR11デショーン・ジャクソンへのタッチダウンパスです。
こちらも図にしてみるとこんな感じ。
ピンとこられた方もいらっしゃるかもしれませんが、今回のプレーのパスコースは、初めに紹介したプレーを反転したような形になっています。
ディープに2レベルできるのが、サイドライン際ではなく、中央に変わっていますね。違う言い方をすると、紫で色分けした部分の位置が変わっているわけです。
コーナーとアウトが、今度はポストとインになっているのでこうなるんですね。
これは、先ほどもちょろっと名前を出しましたが、MillsとかPin(Post・in)コンセプトとか呼べれることもあるもので、カバー4対策にも使われたりもするプレーです。
1プレー目のタッチダウンパスとほぼ同じフォーメーションということも注目です。これができたのは、外へのパターン(コーナー・アウト)と内へのパターン(ポスト・イン)の両方をできる、絶妙なセット位置だった、ということも言えると思います。1プレー目のときに「ハッシュが左で右サイドが広いところに、レシーバーをタイトめにセットさせたのも、外へ向かうルートを生かすという意味で有効だった」旨述べました。この「ハッシュ左」と「右にタイトセット」の組み合わせが、実はポストを通すためにも重要だったのです。
対するディフェンスのアライメントにも注目で、最初にタッチダウンを取られたプレーを反省したのか、今度はSSを下げて2ハイにしています。シングルレシーバーサイドのCBや#2前のニッケルがLOSまで上がっていて、バンチサイドのCBは相変わらずクッションを取ってますね。ブリッツ等も入ってないので、サイン的にはほぼ同じなのかもしれません。ひょっとしたらハーフタイムにSSをディープに下げて#2をカバーさすようなアジャストをしたのかもしれません。
今回の場合、SSがインに食いついたので、SSが元々いたあたりの裏のスペースが空きました。そこへポストで走り込んできたジャクソンにパスが通ったわけですね。逆サイドについては、1プレー目ではインでしたが、ここでもインしてしまうと#2のインと、かぶってしまいますから今回はフェードでCBを釣っています。
CBはジャクソンのアウトへのフェイクに一瞬引っかかってしまい、外側にターンしてしまったCBはどうしてもポストに対して後追いになってしまいました。先ほどのプレーは、同じようなフォーメーションから#1はアウトでしたから、「今度はポストじゃなくてアウトに投げるのかもしれない」というリアリティーがあるわけです。初めに紹介したプレーは第1Qで、このプレーは第4Qなので、ハーフタイムに見ているはずだと思います。
しかも芸が細かい事に、コーナー・ルートでタッチダウンをとったプレーのときに#1レシーバーがアウトしたヤードとほぼ同じ場所でアウトに振ってるんです!
つまり、
第1Qであのプレー(コーナー)を出しておいて、あえて前半には今回のプレーはせず、(コーナーのプレーを)ハーフタイムにアジャストさせる。
で、あのフォーメーションからプレーアクションで#1レシーバーはアウトだったぞとディフェンスに刷り込んでおいて、勝負どころで(しかもハッシュが左になったタイミングで)今回のプレーをコールする。
今度はSSを下げて#2レシーバーをみさせているから、パスが飛んでくるのはアウトの方だな、とCBに思わせといて、その裏プレーとしてポスト。
そんな感じのゲームプランだったのかもしれません。
まぁど素人の邪推な訳ですけど、アメフトってこういう「ああだったんじゃないか」「こうだったんじゃないか」って話ができる部分が本当に面白いですね!
と、いうことで今回はフィッツパトリック特集の前篇をお送りしました。
次回は後編として第2週フィラデルフィアイーグルス戦からご紹介する予定です。
用語の使い方等は、チームや人によっても違ったりもしますので、参考程度にお願いします。
本日の話は以上です!
お読みいただきありがとうございました。
それではまたっ!